宴会エピソード

本当のサプライズ

首都圏を中心にチェーン展開をしている大手薬局グループの決起会をバンケットホールでプランニングさせていただいたときのエピソードです。

ご担当は、ある大規模店の店長でその地区の総括リーダーも兼務なさっている、入社15年目の中堅の方です。部下も増え、仕事にやりがいを感じていらっしゃる一方で、キャンペーンのあとなどは脱力感に襲われることもしばしばあるそうです。元同僚でいらっしゃる奥さまからは、「燃え尽き症候群じゃないの」とからかわれるが、あながちそうかもしれないと思っていらっしゃることなどを、初回のミーティングでざっくばらんに話してくださいました。

会はもちろん会社の意向です。会場担当として指名されたお客様は、激務のなかミーティングに足を運んでくださいました。それは、彼自身のなかに、「もう一歩、モチベーションを高めるための手応えが欲しい」という思いがあったからだとも打ち明けてくださいました。

決起会は、お客様が入社されてから初めての開催になるそうです。
「揃いの鉢巻きで、拳を振り上げる」というイメージが拭えなかったそうですが、打ち合わせを重ねてどのような会にしていくかプランを練っていくうちに、お客様自身が誰よりも張り切っていかれるのが分かり、印象的でした。せっかく集まる社員全員に、何かしら「出てよかった」と思えるものを持ち帰ってもらいたい。最終打ち合わせでは、私とお客様の思いは強く一致していました。

当日の会場の雰囲気はとにかく和やかになるように心がけました。教室のように全員が前を向いて座るスタイルではなく、円卓ごとに席をご用意。チーム分けは地域ごとにしてお親しい方が近くなるようにしましたが、みなさん戸惑ったご様子で席につかれています。テーブル中央のフラワーデコレーションは控えめながら、「とにかく硬い雰囲気にならないように」というお客様の要望にこたえるテーブルセッティングにしました。ややカジュアルなパーティといった雰囲気です。

会が始まってまず、会社のCMとそのメイキングをまとめたVTRが上映されました。普通こういった会は社長の訓示から始まるものだとばかり思っていらした方が多かったようで、会場からはどよめきが起こっています。しかもそのVTRが、笑いあり涙ありの「プロジェクトX」風。これで出席者は皆さん、一気に緊張がほぐれたようです。

そこで会場を明るくします。今度こそ社長の訓示か、とみなさん一瞬構えていらっしゃって、その様子をバックヤードから見守っていた私たちもニヤリとします。続いて行われたのは表彰セレモニー。営業成績は勿論のこと、エコ奨励賞、清掃美化賞、企画ヒット賞になんと大声賞なんてものまで設けられています。しかも、各賞ごとに「胴上げ隊」なる一団(実は幹事の皆さん)がやってきて、表彰された人を派手に胴上げする趣向です。とにかく出席者全員を盛りたてようというこの企みは、私たちとお客様で何度も打ち合わせをして作りあげたプランです。学芸会のようだと怒られるのでは……というお客様の懸念を若いスタッフがフォローし、実現しました。誰にとっても表彰されるのは嫌なものではありません。複数の賞をもらい、何度も胴上げの栄誉に浴していらっしゃる方もおられました。

といっても、本当に学芸会のまま終わってはいけません。ここからが肝心の「引き締めポイント」です。
賑やかな笑い声が一段落したところでようやく、社長さんが登壇されました。にこやかな笑顔の奥に、厳しさが見え隠れしています。社長さんは静かに語りだしました。
「いま、日本経済全体が厳しい状況に置かれている。そのなかで、日々、こつこつと現場に立ってくれる皆に、心から感謝する」

そう言っていきなり深く頭を下げられました。1秒、2秒、3秒……。10秒ほどたってから顔をあげた社長さんの目には、光るものが……。思わず、私の胸にも熱いものが込み上げてきました。
続けて社長さんは、ただがむしゃらに利益をあげるのではなく、地域に愛される店作りを心がけてほしいこと、一人ひとりが広い視野と柔軟な発想力を持ってほしいことを熱く訴えられました。

「入社する前の日のことを思い出してほしい」
その言葉に、私自身、忘れていた高揚感がよみがえる思いです。真新しいスーツ、ピカピカの靴、鞄……。明日から始まる新しい世界に期待を膨らませていたあの日。仕事へのモチベーションが再び心のなかに強く起こるのを感じました。そしてその瞬間、出席者みなさんと同じ思いを共有しているということを確信していました。

会はそのあと、チームディスカッションに入りました。会場に気を配りながら眺めていると、お客様のテーブルに社長さんが何やら声をかけられ、メンバーひとりひとりと握手をされています。あとでお聞きしましたら、「同業他社のみならず異業種からも学ぶための交流会の開催や派遣研修を」という提案をほめてくれ、すぐにでも実行する約束をしてくれたとのこと。円卓作戦は大成功でした。

決起会はそのまま懇親会に移行です。すると、誰からともなく、Tシャツを身に付けはじめました。これは、あらかじめ資料と一緒に各自の席の前に置かせていただいたものです。コーポレートカラーのブルーにベージュで染め抜かれた会社のロゴ。センスのよいノベルティグッズのプレゼントに、皆満足感と一体感を味わっていらっしゃるようです。

帰り際、お客様から声をかけられました。進行に夢中になって気づかなかったけれど、ふと見れば、テーブルに置かれたアレンジメントもテーブルリネンもすべてブルーで統一してあって驚いたこと。そこまで打ち合わせしていなかったのに、担当である自分の手柄のように皆から褒められたこと……。「明日から、ネクタイはブルー一本で行くよ。」笑顔で会場を後にされるお客様に頭を下げながら、内心思わず拳を握ってしまいました。

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